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第30話
ローマ字は3種類ある

皆さんは、疑問に思われたことはありませんか?
学校で習ったローマ字と、世間で見かけるローマ字の表記が、
かなり頻繁に食い違っているのを。
例えば、学校では「シ」を「si」と表記するよう習いましたが、
駅名やパスポートの名前、野球選手のユニフォームの背中の名前など、
多くの場面で「shi」という表記が用いられています。
いったいどっちが正しいのでしょうか?
なぜ、表記方法が2種類あるのでしょうか?

これは、ローマ字の歴史を調べてみると、よくわかります。
まず、「shi」の表記について、
これは「ヘボン式」と呼ばれています。
ヘボンは人名で、幕末に来日したアメリカ人宣教師、
ジェイムス・カーティス・ヘボンの名字です。
ヘボンは医者でもあり、横浜で医療活動をしながら日本語を研究し、
日本初の和英辞典『和英語林集成』を刊行しました。
この和英辞典で日本語を表記するときに用いられたのが
「ヘボン式ローマ字つづり」です。
アメリカ人が考えたために、「shi」「tsu」といった、
英語風のつづりが取り入れられているわけです。

その後、明治期に、物理学者の田中館愛橘(たなかだてあいきつ)が、
第2のローマ字である「日本式ローマ字」を発案しました。
「シ」を「si」と表記する方法は、このときつくられたのです。
以降、ヘボン式派と日本式派との間で対立が起こり、
日本語のローマ字つづりは混乱した時期が続いたそうです。

この事態を収拾するため、
昭和12年に内閣訓令としてローマ字のつづり方が定められました。
これが第3のローマ字で、「訓令式」と呼ばれています。
さらに、昭和29年の内閣告示で、
訓令式を改良したつづり方が定められましたが、
これは現在も慣例的に「訓令式」と呼ばれることがあります。
訓令式は、日本式を基本としながら、慣例上改めにくい言葉に関しては、
一部ヘボン式のつづり方を認める、という内容になっています。
私たちが学校で習ったのは、こちらの訓令式(日本式)ということになります。

学校では訓令式(日本式)を習っているにもかかわらず、
なぜ世間一般ではヘボン式が多く用いられているのでしょうか。
個人的な見解ですが、昭和29年に内閣告示が出された時代よりも、
英語がより身近になった現代の日本人にとっては、
ヘボン式のつづり方のほうが馴染みやすくなっているのだと思います。

さて、今回こうした話を紹介した理由は、文章を書くうえで、
日本式とヘボン式を混用しないようにしていただきたいからです。
例えば、「ツ」を「tsu」と表記しているのに、
同じ文章の別の箇所で、「シ」を「si」と表記していると、
「隅々まで気を配られていない」という印象を、読者に与えてしまいます。
ヘボン式ならヘボン式、日本式なら日本式という具合に、
「表記を統一する意識を持つ」ことが大切です。

(ローマ字表記の一覧表は広辞苑の付録頁に掲載されています。ご参照ください)

◆ヒント&ポイント◆
「ローマ字には、ヘボン式と日本式(旧)、
一部ヘボン式を許容した訓令式(日本式)の3種類がある」
「一つの文章の中では、ヘボン式か日本式のどちらかに表記を統一する」

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