審査員：太田徹也 氏による評価 「日本ブックデザイン賞2018」作品集より転載 本書は「パレード」という出版社に係わった面々の仕事と生活をありのままに綴った「三十年史」でもある。そこには、仕事と人生の点、線、面を上手にからみ合わせた内容の記事が満載編集されている。
本文活字の全ては明朝体で組まれ、飾り気のない本文組も単調さもなく活字の大小でダイナミックに、この900ページにも及ぶB-6判変型の本は余白を十分に生かし、掌の中で無重力に収まり、机上で真っ直に立ち、さらに平らに置いても開脚よく製本され、サイズと本文ページのバランスもほどよく計算されている。技術的にも内容にふさわしい装本で、その暖い心情の波長が伝わってくる。
近年、のっぺりとした版面の出版物が多い中で、余白を上手に使い切った巻子本風の漂いが全体に冴えわたっている。
本書は、単なる無機的な「記録」ではなく、人間の血脈の中を運ばれてきた貴重な「記憶」として、これからも永く愛されるにちがいない。