
16「スイングバイ 17年間の引きこもりを経て、社会復帰を目指し一歩ずつ歩み続けた今、伝えられること」糸井博明さん

ジャンル:エッセイ・詩・ノンフィクション
発行:2024年3月
「スイングバイ 17年間の引きこもりを経て、社会復帰を目指し一歩ずつ歩み続けた今、伝えられること」
2024年度第27回日本自費出版文化賞エッセー部門特別賞
家族や社会への信頼を失い、怒り、惨めさ、悔しさから何もかもを投げ出したくなった時期があった――。引きこもり、統合失調症、発達障害、登校拒否。壮絶な過去を生きてきた著者が、自ら発した一つのSOSをきっかけに、少しずつ人と関わり心を取り戻していく35年間の記録。
17年間引きこもっていた私。エッセイを出したことで、
自分を肯定できるようになりました。
Parade Books | 出版後すぐに増刷になったり、テレビや新聞、ネット記事などで取り上げられたり、大反響ですね。そして何よりも、日本自費出版文化賞エッセー部門で特別賞を受賞されました。おめでとうございます! |
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著者 | ありがとうございます。最初は出版後のことを具体的に考えずに書き始めたので、こんなにいろんなところで取り上げていただけるとは思っていなかったです。まさか17年間引きこもってた私がエッセイを出して、立派な賞までいただけるなんて、びっくりですね。自分の経験や文章を評価いただけたのだと、すごく嬉しかったです。 |
Parade Books | 素晴らしいご活躍ぶりです。今回のインタビューにあたり、糸井さんがこれまでに受けられた取材を改めて調べてみたところ、とあるネット記事では糸井さんの肩書が「作家」となっていましたね! |
著者 | 講演会をすると、お子さんから「作家の先生だ!」と本にサインをお願いされることもあって(笑)。 実は、講演をする「自信」って、本を出したことでついたものなんです。原稿を何度も推敲して、校正して、やり取りを重ねたからこそ、自分の言葉に責任が持てるようになりました。 引きこもりの当事者やそのご家族が私の話を聞きに来てくれると、出版して良かったなと思います。 |
Parade Books | 言葉に責任を持てるようになったというのは、ご自身で執筆したからこそ得られた財産ですね。他に変化はありましたか? |
著者 | 私は精神障がいが理由で、もともと劣等感が強いんです。「どうせ障がい者だから見下される」って心のどこかでは感じてしまうんですよ。でも、出版後の講演会ではその真逆で、「この人は信用できる」っていう目で見られるようになっていた気がして、「自分は見下される存在じゃないんだ」と自分を肯定できるようになりました。本を出したことで、「福祉や障がい、引きこもりの分野に詳しくて、なんかすごく頑張っている人」という印象を持ってもらえるようになったのだと思います。 |
Parade Books | 出版を機に、人生が大きく動き出したんですね。もともと引きこもりから脱した経験が新聞記事になったことが出版のはじまりだったとか? |
著者 | そうなんです。郵便局で働きながら、7年半かけて大学を卒業したことを記事にしていただきました。 |
Parade Books | そこから自費出版されることになった経緯を教えていただけますか。 |
著者 | 引きこもり支援の施設で、ケアマネージャーさんと話す機会があって。その方が「17年間ひきこもって閉鎖病棟にも入った人が、郵便局で働きながら大学を卒業し、障がい者の相談員を目指している」という自分の経歴に興味を持ってくださったのがきっかけです。 |
Parade Books | なるほど。その方が出版をすすめてくれたのですね。 |
著者 | はい、すごく熱心にいろいろ提案してくれて。最初はブログに書くとか、そういう話もあったんですけど、「それ、本にしてみませんか?」って。本になればもっと多くの方が糸井さんの生き方に触れることができて、良い影響を受けられるはずだと仰ってくださいました。それで、出版を決意したんです。 |
Parade Books | Amazonのレビュー欄や講演会の盛況ぶりから、今、こうしてたくさんの方が良い影響を受けていらっしゃる様子が伺えます。ケアマネージャーさんの意図した通りになりましたね!原稿はスラスラと書けましたか? |
著者 | いや…それが、いざ原稿を書き始めてみると、幼少期のエピソードで早々に詰まってしまいました。何を書けばいいのか思い浮かばなかったんです。でも、大学卒業や就職活動、婚活、心理学の体験型セミナーで学んだことも含めて考えると、本に必要そうなエピソードがだんだんと見つかって。引きこもっていた時代と社会復帰した後を比較することで、魅力的な本になるんじゃないかと。それでようやく、これは書けるな…と。 |
Parade Books | 社会復帰までのご経験や大学での学びが活かされて、エピソードが掘り起こされたんですね。その後は一気に書き上げたんでしょうか? |
著者 | そうですね。半年くらいかかりましたが、なんとか書き上がりました。 |
Parade Books | 原稿が完成し、いよいよ出版をするにあたって、たくさんの出版社から、パレードブックスを選んでくださった理由はなんですか? |
著者 | 正直に言うと、最初は「安く作れて販売もできる」という別の会社に相談しました。でも、対応が堅苦しく感じたんです。自分にとっては、メールのやり取りひとつでも結構しんどい。担当の方の空気が重くなると、こちらも考え込んでしまって…。これは無理だなって思ってしまったんです。 そんな時に、パレードブックスさんを見つけて相談してみたら、まずメールの文面が柔らかくて。表現が重くなりがちな自分の文章も、いい感じに調整してくれる方が担当についてくれました。ここならやれそうだなって思えたんです。 |
Parade Books | 嬉しいお言葉、ありがとうございます。弊社は著者の思いを第一に、ご要望に寄り添うかたちで出版をお手伝いしていますので、その点を安心材料にしていただけたようで何よりです。 |
著者 | そうですね。大学のレポートみたいな堅い文章は書いたことがあったんですけど、エッセイは今回が初めてでした。難しい専門用語や表現を、障がいをもつ子どもたちにも理解してもらえるように、一緒に考えてくださるのは本当に助かりました。 |
Parade Books | メインの読者対象が中高生の子どもたちでしたもんね。言い回しについては、私どもからもご提案しつつ、糸井さんに頑張っていただきました。 |
著者 | 柔らかい言い回しを提案してくださったことだけじゃなくて、固有名詞などの正式名称を教えていただけたのも良かったです。普段は何気なく使っている言葉が自己流だったりしていたので…。たとえば、「東日本大震災」のことを「東北大地震」と書いてしまっていたり。 |
Parade Books | なんとなく話すことと違って、書籍では言葉に正確性が求められますが、はじめての出版だと自分ではなかなか気付きづらいですよね。客観的に原稿を確認するのって、一人では難しいものです。 |
著者 | 本当に。そういったやり取りを何度も重ねて、世に出しても恥ずかしくない原稿ができたのが嬉しかったです。仕上がりの「質」という点で、すごく満足しています。 |
Parade Books | ありがとうございます。自費出版の印象って、出版前と比べて変わりましたか? |
著者 | 変わりましたね。サポートの手厚さや、原稿の質の部分も含めて、良い印象に変わりました。あと、特にびっくりしたのは、1冊売れたら定価の50%が売上金として入るってこと。商業出版では印税が数%って聞いていたから、「これ、出版社さん大丈夫なのかな…?」って(笑)。 |
Parade Books | ご心配ありがとうございます(笑)。弊社ではあくまで“著者から販売を請け負っている”というスタンスですので、販売については手数料だけを頂戴して、それ以外はすべて売上金としてお返しする仕組みなんです。 |
著者 | なるほど。私たちにとっては、本当にありがたい仕組みですね…。 |
Parade Books | その点も、著者の思いを最優先したからこそ実現できました。それでは、ご出版という経験を経て、今後やっていきたいことや、これからの夢があれば、ぜひお聞かせください。 |
著者 | できればプロの作家として、2冊目、3冊目を出したいと思っています。違うテーマでもっと多くの人に伝えたいことがあるし、特に「なぜ引きこもってしまったのか」「どうすれば抜け出せるのか」といった部分は、多くの方が知りたいことじゃないかなと…。そういうのを自己啓発本みたいな形で出してみたいです。 |
Parade Books | とても良いテーマですね。今も引きこもりに悩んでいる方たちにとって、糸井さんの視点はものすごく力になると思います。これからも講演や出版と、ご活躍の場がますます広がっていくことを楽しみにしています! |